還暦を迎えた男と女もまだセックスは可能だった。
互いに浮気したことのない同級生の男と女、羞恥でおどおどしながらも、漸くにして結ばれた一夜だった。
それは還暦同窓会の帰り道だった。
激しく降り続く豪雪が車の運転を危険にさらし、それが彼女と一夜を過ごす結果となった。
互いに羞恥がつきまとう還暦の男と女の清純な一夜、しかしまだ、セックスの出来る男と女だった.
還暦同窓会が終わった翌朝、誰もそれぞれ帰途に着いた。
私も家が近い彼女を助手席の乗せて国道を西に向かって車を走らせた。
その頃は小雨交じりのミゾレだったが、その国道から陰陽を結ぶ国道に分岐して入ると、小雨は雪に変わった。
この国道は、県境を越えるのに大きな峠があり、交通の難所でもあった。
登り道に差しかかると雪はフロントガラスを激しく叩きつけた。
道路脇の雪は1メートルは積もっていると思った。
前方が真っ白くなって道路が何処なのか分からない。
かろうじて、ハンドルに伝わるタイヤの感触で道路を走っていると感じた。
そんな道を運転していると、雪でスリップして道路脇に突っ込んでいる車を何台か見て通り過ぎた。
雪道の運転に慣れていない私は、激しく降る雪道の運転に怖さを覚え、助手席の彼女に「雪が激しく降るね…、
この雪だと峠越えの運転が不安で怖い…。
もうすぐ、街に入るが、そこで宿をとって、明日、帰ることにしませんか…」
と呼びかけると彼女は、「そうね…、危ないから、そうしましょう…」と云って承知してくれた。
彼女も豪雪の運転に危険を感じていたのだ。男と女の二人で泊まるのは、
世間体を気にする私にとっては不安だったが、命の危険には換えられなかった。
前が見えぬほどに降り続く雪の中を慎重に走り、ようやく、
深い雪に覆われた「旅館」の看板が目に入り、否応なしにその旅館に跳び込んだ。
激しく降りしきる雪の中で玄関を叩くと、四十代と思われる若い女将さんが出てこられた。
「激しい大雪で峠越えが危険なので、泊めて欲しいのですが…」
と頼むと、その女将さんは「この大雪で仕入れが出来ず、何もないのですが…、
ほんのあり合わせで良ければ…」と言って承知してくれた。
二階の八畳間に通された。部屋は冷え切っていて寒暖計は氷点下三度を指していた。
女将さんが、ストーブと炬燵とエアコンの三つを同時に入れてくれた。
部屋が暖まるまで二人はストーブの前で顔を見合わせて体を温めた。
窓の外はボタンのような大きな雪が、向こうが見えないくらい降り続いている。
午後四時なのにもう薄暗かった。
女将さんが見えて「お風呂が涌きました…。どうぞ…」と云ってくれた。
私たちを夫婦だと思っているような言葉使いだったので、思わず二人は顔を見合わせた。
「夫婦と思われていますよ…。まあいい…、
今晩は夫婦でいましょうよ…」と云って、また、顔を見合わせた。
風呂から上がっていると、「夕食の支度が出来ました。食事は一階ですから…」と告げられた。
一階に降りると、六畳の間に炬燵があり、そこに夕食が用意されていた。
私たちの他には泊まり客は誰もいないようだ。夫婦気取りで二人は食事をした。
終わって二階の部屋に戻ってみると布団が二つ並べて敷いてあった。
またしても二人は顔を見合わせた。彼女の顔は、来るとこまできた…全てを任せる…、
と言っているような温和な上目使いの顔だった。
私は妻に電話し「大変な大雪で車の運転は危険だから、
今晩もう一晩泊まって、明日、帰る…」と告げた。妻は「そうですか…。
わかりました…」と別に不審に思っている感じではなかった。彼女も家に電話した。
彼女は三十六歳の時、主人と離婚し、今は娘さんと二人で美容院を営んでいた。
テレビドラマが終わったのは午後九時五十四分だった。
それを機に「もう、休みましょうか…」と声を掛け、二人はそれぞれの布団に潜り込んだ。
電気を消すと部屋は真っ暗となったが、目が慣れると、障子は、雪の白さで薄明かりとなっていた。
薄闇に見ると、隣の彼女は背を向けて横たわっている。
妻以外の女が、今、横に寝ている…。気が立って寝付かれない。
彼女に寄り添ってみたいが、その勇気はないし、きっかけもない…。
黙って彼女の布団に潜り込んで行っても、もし、拒まれたらどうしよう…。
でも、妻以外の女の肌に触れてみたい…。
女の昂ぶりは、妻とどんなに違い、どんな反応を示すのだろうか…。
そんなことを思い続けていると興奮で胸の鼓動が高鳴る…。
不謹慎にも男のものは硬く立ち上がっていてどうしようもない…。
そんなことを思い浮かべて、既に三十分は経っていた。
馴れぬ人が横に寝ているという恥ずかしさと好奇心とが入り乱れて、気持ちが昂ぶっている。
静かに寝返りを打った…。すると今度は彼女が寝返りを打った。
彼女も寝付かれないのだ。私は勇気を出して「眠れないの…」と呼びかけてみた。
すると彼女から「ええ…、眠れないの…」との返事が返ってきた。
「きっと、豪雪で危険な運転だったから、緊張しっぱなしで疲れすぎて、気が立っているのですよ…」
と言ったが、そのことよりも本音は、妻以外の女の人が横に寝ていることえの羞恥と好奇心が要因だった。
この言葉のやりとりで、二人の間にはきっかけが出来て、暗黙のうちに糸が繋がったと思った。
その時、時計は午後十時三十分を指していた。心臓が激しく鼓動を打っている。
高鳴る胸の鼓動を押さえ、勇気を出して、背を向けて横向きになっている彼女に近づき、手を伸ばした。
指がそっと彼女の髪と頬に触れた。彼女はジットしていた。彼女も不安と恥ずかしさが交錯しているのだ…と思った。
「大丈夫…何もしませんから…心配しないで…」と言って彼女を安心させた。
と言いながらも彼女の布団をそっと捲り、静かに布団の中に潜り込んで、彼女の背中に触れた。
腰を寄せると彼女の柔らかな尻朶に触れた。当然に硬くなっている男が彼女の尻朶に触れる。
彼女も(えぇ…、もう硬くなっている…)そう感じたのだろう。
続く。。。